追悼

 一つの時代が終わった気がする。大好きな作家のひとりである東野圭吾氏が亡くなった。大腸がんを患っておられたそうだが、68歳でこの世を去るのはあまりにも早すぎる。

 私が東野作品と出会ったのは『秘密』だった。大阪で生まれ育った彼は、大阪府立大学工学部電気工学科で学び、一度は就職もしている。しかし、1985年に『放課後』で江戸川乱歩賞を受賞したことをきっかけに作家としての道を歩み始めた。しばらくは思うように評価されない時期もあったようだが、『秘密』の大ヒットを機に、押しも押されもしないミステリー作家として次々と名作を生み出していった。

 テレビドラマでおなじみの「ガリレオ」シリーズの主人公は、直木賞を受賞した『容疑者Xの献身』をはじめとする多くの作品で、殺人事件のトリックという難題を鮮やかに解き明かしていく。そのトリックには、東野氏が大学時代に学んだ電気工学の知識が随所に生かされている。東野作品は、読み始めると一気にその世界観に引き込まれ、予想を裏切る大どんでん返しに驚き、人間同士の心の通い合いに胸が熱くなる。読み終えた後にじんわりと余韻が残る、そんな作品ばかりだった。

 最近は、読み終えた本を保管する場所がないため、図書館で借りたり、購入してもすぐ手放したりしていて、新作は手元に残っていない。しかし、『秘密』など初期の作品は、今も自宅の本棚に静かに並んでいる。この夏、久しぶりに『秘密』の世界に身を委ねてみよう。東野氏の訃報を伝えるニュースを見ながら、ふとそう思った。